福島智さんとの出会い 2003年5月20日
熊本大学・粂 和彦
Seeing is believing!
先日、ある会で福島智さんとご一緒しました。福島さんは9歳で失明し、18歳で失聴した盲ろう者の方ですが、教育学者で、現在、東京大学の先端研の助教授です。英語ですが、最近、TIME誌のアジアのヒーロー特集でも紹介されました。
http://www.time.com/time/asia/2003/heroes/satoshi_fukushima.html/
福島さんの研究室や業績の紹介は、下記をご覧下さい。
http://www.bfs.rcast.u-tokyo.ac.jp/index.htm
http://satellite01.bfs.rcast.u-tokyo.ac.jp/fukusima/
残念ながら、上のリンクは、現在はWEBでは読めないようです。
現在、福島さんは教授で、下記がその所属です。
http://www.bfp.rcast.u-tokyo.ac.jp/fukusima/
http://www.rcast.u-tokyo.ac.jp/ja/people/staff-fukushima_satoshi.html
私は、これまで障害を持つ方ときちんとお話したことが、ほとんどありません。
20年前の大学生の時に、日米学生会議(JASC)という会で、1ヶ月間、
視力障害のある方とご一緒したのが、ほとんど唯一の経験で、その時も、私自身が全面的にお手伝いをしたのは丸1日だけで、どうやっていたのかさえ忘れてしまったというのが、正直なところです。そのため、実は、私は福島さんと同い年ですし、お話もしてみたいと思っていたのですが、せっかくお会いする機会があるとわかっていても、恥ずかしながら、目だけではなく、耳も聴こえない福島さんと、いったいどうやってコミュニケーションを取ることができるのか、イメージがわきませんでした。
しかし、会場で福島さんにお会いして、実際にお話もして、自分の想像力の貧しさと、現状認識の無さに私は恥じ入りました。たくさんの方が壇上で発表したのですが、福島さんはその議論にも積極的に参加され、会場のたくさんの方とお話をされ、私も短時間ですが、直接お話しできました。福祉に関心を持つ方の多いあの会場では、こんなことに驚いたのは、私くらいで、みなさんには、ごく当たり前のことだったでしょう。それにもちろん障害があることではなく、福島さんのこれまでの業績や
人柄にこそ、みなさんも魅かれていたと思います。
福島さんには「指点字」のできる通訳者の方がついていて、会場の発表や私たちの挨拶を、指で福島さんに伝えてくれます。福島さんは、大人になってから失聴されたので、声を出して話すことはできますから、答えは直接、ご本人の声で伝えてもらうことができます。実は、この会場には、他にも視覚や聴力に障害を持つ方がいらっしゃっていて、発表内容を、手話や速記のディスプレーなどで、「通訳」していて、これらの配慮だけで、コミュニケーションのバリアがフリーになることを実感できました。
帰ってから、福島さんのホームページなどを見直して、IT技術が、さまざまな障害を乗り越えるために役立っていることを、今更ながら、認識しましたが、やはり素敵な方たちと直接お会いして(see)お話しすることが、自分自身の心のバリアーフリー化には、一番、役立ったかなあ、Seeing is believing だなあ、と、感じています。
なお、普通の点字は、6個の点の凹凸で、50音の一文字を表しますが、この6個の点を、両手の人差し指・中指・薬指の6本の指にあてはめて、点字を打つことができる点字タイプライターというのが、昔からあります。「指点字」は、このタイプライターで打つのと全く同じことを相手の6本の指に打ちます。ですから、点字タイプライターを打てる方なら、誰でも指点字で、お話しすることができます。
私は、運良く福島さんの向かいの席だったので、通訳の方が指点字をされるのを、ずっと見ていましたが、そのスピードの速さは、驚きでした。タイプするのは、慣れれば速いスピードで打てるのはわかりますが、すごい勢いで参加者たちが話すのを、6本の指で打ち込まれるアイウエオの50音で、「指で聞いている」福島さんを見ていると、人間の能力の素晴らしさにも感激しました。実際、私とお話しした時も、昔の国際電話よりも遅れないなあなどと、変な感想を持ちました。壇上の方が、ある冗談を言った時にも、私より先に福島さんに笑われてしまい、なんで先を越されるかなあと思ってしまいました。
福島さんのような・・・あるいは、ヘレン・ケラーの仲間と言った方が、もっとわかりやすいかもしれませんが、盲ろう者の方は、全国に2万人以上いらっしゃるそうです。盲ろう者の方には、視力障害者とも聴力障害者とも、また少し異なる配慮が必要です。障害者に優しい社会は、健常者にも優しい社会であり、優しい社会を作ることに、少しでも貢献できると良いなあという思いと、元気をもらって帰ってきました。