熊本大学発生医学研究センター 幹細胞制御分野


ES細胞からPdx1陽性領域特異的内胚葉への分化誘導

Guided differentiation of ES cells into Pdx1-expressing regional specific definitive endoderm.
Shiraki, N., Yoshida, T., Araki, K., Umezawa A., Higuchi, Y., Goto H., Kume, K., and Kume, S.
Stem Cells Express, published online doi:10.1634/stemcells.2007-0608

ES細胞は、個体のすべての組織細胞を作る能力をもった細胞であり、発生分化メカニズムを研究するツールとして有用であり、 再生医療における細胞移植の細胞源として注目されている。 幹細胞制御分野(粂昭苑教授、白木伸明研究員ら)では、ES細胞から膵前駆細胞(Pdx1陽性細胞)を効率よく分化誘導できる方法を開発した。 ES細胞から膵β細胞を誘導する技術については、いくつかの報告がなされていたが、膵β細胞に至るまでの分化制御機構について分子レベルでの解析は少ない。 膵臓は内胚葉由来の臓器であり、膵β細胞(Insulin陽性細胞)は膵前駆細胞(Pdx1陽性細胞)・内分泌前駆細胞(Ngn3陽性細胞)を介して発生する。 今回、白木らは様々な細胞株をスクリーニングして、ES細胞から膵前駆細胞を効率よく分化誘導できるM15細胞を見いだした。 さらに、スクリーニングに使用した細胞株についてマイクロアレイ解析を行い、M15細胞のもつ分化促進能力の本体について解析を行った。 解析の結果、膵臓分化に関して、アクチビン・FGF・レチノイン酸・接着因子の関与が示唆された。 そこで、M15細胞と液性因子の添加を組み合わせることでES細胞から非常に効率よく膵前駆細胞を分化誘導できる方法が構築できた。 定量的な解析の結果、支持細胞のみ場合では得られる膵前駆細胞は約2%程度であったが、液性因子を添加することで約30%と飛躍的に増加した(図1)。

得られた膵前駆細胞については、マウスへの移植実験を行い、膵臓を構成するすべての細胞へ分化可能であることがわかった。 また、この系を用いていることでES細胞から中内胚葉・内胚葉を介した膵前駆細胞への分化誘導に関与する様々な因子についても検討を加えることができた(図2)。 今回、開発した方法やそこから得られる膵前駆細胞を利用することで、膵臓分化機序の更なる解明が期待される。

この研究成果はStem Cells電子版に先行掲載された。