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熊本県薬剤師会市民公開講座の質問への回答




東日本大震災で大変な思いをされている方に、お見舞いを申し上げます。

1週間で書くつもりでしたが、物理的にも精神的にも余裕がなく遅れました。
申し訳ありません。

1.睡眠導入剤(睡眠薬)の副作用について。認知症にならないか?
→認知症にはなりません。睡眠薬の副作用については、
 1)持ち越し効果:翌日に眠気・だるさが残り、元気が出ない=キャリーオーバー
 2)反跳性不眠 :中止した日に、寝つきが悪くなる
 3)順行性健忘 :眠る前にしたことを忘れてしまう
などが重要で、このうちの3があるので認知症になると、よく誤解されます

2.62歳女性、デパス0.5mg、ハルシオン0.25mgをずっと飲んでいます。9時間眠っても、まだ眠いです。
→講演でもお話したように、眠気が残るのは、睡眠が足りない場合だけではなく、日中に元気が出ないことそのものが原因のこともあります。その場合には、多少眠くても、しっかり運動をしたりすることや、デパスなどを減らすことも考えても良いと思います。年齢とともに必要な睡眠時間は一般には短くなりますし、9時間眠っても眠いのは、睡眠が足りないからとは考えにくいです。

3.うつ病で治療中で9ヶ月薬を飲んでいます。いつまでも飲んでも大丈夫か?
→薬については主治医と相談して下さい。ただし治療は長くかかりますし、9ヶ月でも決して長すぎることはありませんが、慢性化している場合には、薬以外の治療(認知行動療法など)も、是非、試して下さい。

4.大変ためになるお話でした。眠れなくて、夜の来るのが怖いほどでしたが、今日の話を参考にしてみます。
→夜は、必ず明けます。本来は眠れないことは怖がるようなことではないはずです。楽しくて眠れないことだってありますよね?眠りたいけど眠れないのは、不眠症(=「眠れない病」)ではなく、「眠りたい病」です。どうしても眠れない時には、あきらめて、翌日に期待しましょう。あきらめた瞬間に、だんだん眠くなってくるはずです。なぜなら、あきらめるということは「意識」を弱くすることだからです。眠りたいという「意識」が強いと眠れません。「意識」が勝って、眠いという「無意識」が逃げていきます。そして、ようやく眠くなった時にも「やった、これで眠れそうだ」などと、「意識」してはいけません。だからと言って「思ってはいけない」とも「思ってはいけません」。それも「意識」です。このような「自分自身を監視する意識」を弱くするために、唯一できることは、他のことに意識を向けることです。ですから、静かな音楽を聞いたり、やや難しくて(あまり面白くない)本を読んだり、目を閉じて好きな光景を思い浮かべたりということに、ある程度「没頭」する努力をしてみて下さい。また、たとえ寝付くのが遅くなっても、大幅な寝坊をしないこと、夕方から眠る前の時間帯には、絶対に昼寝をしないで身体を動かすことに努めて下さい。

5.パニック障害・うつ病・PTSDと診断され、ソラナックス2錠x3回、ハルシオン2錠、ロヒプノール2錠を飲んでいます。元々、不眠気味で、眠くないから寝ていなかったですが、薬で6時間程度眠れるようになったので、それなりに満足しています。ですが、昼間の気分の落ち込みは、一向によくなりません。現在の薬の前に他にも、いろいろと薬を試してみたのですが、気分も改善せず、夜も眠れませんでした。日中の気分、全てにおいて面倒だと思う気持ちを改善する方法はありませんでしょうか?
→(この質問を頂いた方にはメールアドレスも書いてもらったのですが、間違っていたようで、返信が届きませんでした)
講演でお話ししたように、「眠れないこと」が「うつ状態」の原因になっている部分があっても、慢性化する中では「睡眠薬が多いこと」も問題になってくる場合があります。ロヒプノールなどの翌日に残るタイプの睡眠薬は、徐々に減らしていった方が、昼間の元気は出てくることもあります。主治医の方と相談して、薬以外の治療法、たとえば、認知行動療法などを試してみることもお勧めします。薬以外の治療をすることで、薬の方を減らしていくことができます。うつ病の薬は、薬だけで治すものではなく、一時期は薬に頼ったとしても、少しよくなってきた段階で、薬以外の治療を増やして行って、そのことで薬をなくしていくものです。また、面倒だと思う気持ちの問題と考えるのはやめて、まず身体を動かすことを考えるのも重要です。意欲は薬だけでは改善しないので、身体を動かしてみて下さい。

6.息子16歳が、夜眠れず朝まで起きて夕方起きます。睡眠相後退症候群のようなので、病院にかかった方がよいでしょうか?
→睡眠相後退症候群についての対処法は下記にあります。
http://k-net.org/dsps.html
こちらの方法を試してみて、うまくいかない場合には、養護の先生や、医療関係者に相談して下さい。

7.数年前の出来事から眠ることができなかった。うつ病が、睡眠に及ぼす影響について教えて欲しい。
→うつ病の場合、病気そのものの症状としての不眠がまずあります。日中には意欲が喪失し、不安感があり、夜眠れません。この時は、うつ病そのものの治療が必要です。しかし、うつ病がよくなって、日中の意欲が出た段階では、少し状況が変わります。講演でも話したように、日中の活動が下がると眠れなくなります。うつ病の時に動けなかったことや、健康や仕事、人間関係について不安が残っていることから、回復期にも、健康な時よりも、身体の活動量が減っていることが多いです。そんな時には、どんどん身体は動かした方が良いですね。特に、楽しいことはどんどんした方が良いです。できれば、眠れないことは忘れるのが一番です。もちろん忘れようとして忘れるわけではないので、別のことを考えるということです。

8.22歳の娘のことです。マイスリー1錠を4年ほど前から飲んでいます。頭痛がひどく、時々デパスを夜飲んでいます。デパスとマイスリーを一緒に飲んでも、大丈夫でしょうか?
→2種類を1錠ずつなら、大丈夫な量と思います。単純な慢性不眠では、それを超える量を必要とすることは、まずありませんので、それ以上必要になる場合には注意して下さい。多分、これまでの経緯から2種類の内服となっていると思いますので、主治医の方と相談して下さい。ただし、4年間飲んでいる場合には、急にやめると問題が起きる可能性がありますので、減らす場合にも相談しながら行って下さい。

9.40才の女性です。食事も、車中でも、大切な人との会話中で居眠りをします。以前から何か病気があるのではと気にしています(私は本人ではなく母親です)。夜の眠りは余りよくわかりませんが、朝起きてもよくありません。1年前に婦人科のがん手術をしました。しかしその前から居眠りは多いです。
→きちんと睡眠を取っていても仕事に影響が出るような居眠りが多いなら、一度、病院で相談してもらう方が良いかもしれません。まず睡眠時間をチェックするのが最初です。

10.うまく眠れなくて、眠りすぎている娘をどうやって病院に連れて行くか悩んでいます。
→眠りが不規則になっているということでしたら、まず下記を読んで、毎日、無理せず起きられる時間を探すことから始めると良いと思います。睡眠相後退症候群についての対処法
http://k-net.org/dsps.html

11.マイスリー10mgを7.5mgぐらいに割って毎晩夜10時半頃飲んでいますが、最終的にトイレに11時ごろ行って休みますが、必ず夜中3時半頃目が覚めてトイレに行きます。年齢的とは思いますが、1晩でよいから朝6時頃まで眠って見たいです。どうしたらよいでしょうか?
→もし、本当に一晩だけで良いのなら、とても簡単です。まず、一晩、徹夜して下さい。その翌日、眠くても我慢して、夜12時過ぎまで起きていて下さい。おそらく6時頃まで、ぐっすり眠れます・・・というのは、半分冗談、半分は真面目です。つまり、まず10時半に睡眠薬を飲むのは早すぎます。必要な睡眠時間は、多分5〜6時間ですから、12時過ぎまで起きていても大丈夫です。なるべく夜更かしをして、少し眠くなったら、マイスリーを5mgで良いので飲んで眠ってください。今より、元気な毎日が過ごせるようになると思います。

12. 66歳男性です。今日のお話よくわかりました。(「眠りの悩み相談室」を約半分読んで参加しました)若い頃から入眠に時間がかかり、途中で目覚めやすく寝不足気味。昼間の活動には問題ありません。50歳ごろから昼の調子が悪くなり、(やる気がでないなど) 眠剤を数種類試した結果、初めはユーロジン半錠でよく眠れましたが、しだいに量がふえ、7〜8年までからは2錠プラス、ハルシオン1錠を常用しています。しかし今は、それでも昼間のQOLが低下した毎日です。現在の睡眠時間は0時〜5時で、昼間軽い頭痛があり、昼寝をすると治まります。今後、昼間、脳を疲れさせる努力をしてみます。HPを見た後で、改めてご相談いたします。アルコール、コーヒー、紅茶は飲みません。(緑茶もほとんど飲みません)
→睡眠薬が増えてしまった原因は、睡眠薬だけで睡眠時間を伸ばそうとしてしまったからだと思います。主治医との相談が必要ですが、ユーロジンは半減期が長いので、できれば1錠以下にして、睡眠薬以外の方法で、睡眠を伸ばす工夫をして下さい。

13.看護師をしています。夜勤で2時とか3時に朝食をとります。早出(6時)の時も3時頃に朝食をとります。今日の話で、肝臓に負担が大きいと聞きました。それならば、その時に食べるのに、理想的な食事とかありますか。慢性的に睡眠不足だと思っていましたが、さほど昼間にきついことはありません。寝付くのがおそくなった気がします。また、物忘れがひどくなってきたのは年のせいでしょうか。
→夜勤は大変ですね。まとめて休みを取りたいという希望で、夜勤をまとめてしまう看護師さんも多いのですが、睡眠の観点からは、夜勤と夜勤の間隔を、なるべく広げた方が良いとされています。また本来食事を食べない夜間の食事としては、肝臓に負担をかける高カロリー食は避けるのが良いと考えられています。つまり、あまり重くない食事を軽く食べるということです。つまり夕食用の病院食を食べるのは、あまり良くなさそうで、朝食用が良さそうです。年齢が書いてなかったので、最後の部分はわかりませんが、睡眠不足は物忘れにつながります。

14.貴重な講演をとてもありがとうございました。とてもためになりました。仕事の途中でも、知らないうちに居眠りすることがよくあります。(人に注意を受けることがあります) これは、睡眠不足なのでしょうか、それとも過眠症なのでしょうか。家でも食事中にねていまったり、TVを見ていて寝てしまって、落ちてしまったことがあります。もし受診が必要なら、どこの病院で何科を受診したらよいか分かりません。教えていただきたいと思います。くわみず病院を受診してよいですか。紹介状はいりますか。
→過眠症かどうかは、まず睡眠時間が足りているかどうかから判断します。睡眠表が以下にありますので、これを1〜2週間つけてみて、平均睡眠時間を計算して下さい。また、お休みなどの時に、長めの睡眠を最低でも3〜4日間続けて、しっかり取って、その時の眠気を観察して下さい。その時でも眠気がひどければ、過眠症の可能性があります。また、くわみず病院の睡眠外来は予約制ですが、紹介状は不要です。

15.セロトニンとメラトニンの関係を教えて下さい。セロトニンを増やすとメラトニンが増えますか?
→トリプトファンというアミノ酸がセロトニンになり、それがメラトニンになります。
→わかりやすい図はこちらです。(元の図のブログURL http://fptsukioka555.blog86.fc2.com/blog-entry-338.html
セロトニンもメラトニンも作られるのは細胞の中で、作られる量は、きちんと制御されています。またセロトニンを作って放出する細胞とメラトニンを放出する細胞は異なります。メラトニンは、松果体という脳の中の小さな場所で作られるものがほとんどで、メラトニンを作る量は材料となるセロトニンの量ではなく、メラトニンの合成酵素の一つのNATの活性で調節されています。ですから、単にセロトニンを増やしても、メラトニンは増えません。
 また食事との関係もよく質問を受けますが、たとえば、ヨードを使って甲状腺ホルモンは作られますが、ヨードを食べたら、甲状腺ホルモンができすぎてしまうということは、通常の量の範囲内では起こりません。これらのホルモンの量は、普通は材料の量で決まるのではなく、きちんと制御されているからです。同じように、食事の中のトリプトファンやセロトニンの量と、体内で作られるセロトニンやメラトニンの量は、基本的には関係ありません。基本的にはという意味は、例えばトリプトファンを全く食べなければ、当然ですが作れなくなりますので、完全に無関係ではないということです。ただし、普通の蛋白質(お肉・魚・豆類・牛乳などなど)には、トリプトファンは含まれますから、普通は足りなくなることはありません。また、セロトニンは、血液から直接脳に到達できませんが、メラトニンは脳にも到達しますので、直接メラトニンを飲めば、脳に対して作用します。

16.追加の質問
(1)朝の光がリズムを逆に遅らせることもあるとのことでした。どういう場合でしょうか?
→これは、脳の中の時計(体内時計)が、既にひどく遅れて極端な夜型(だいたい6時間以上の遅れによる夜型)になってしまった場合です。例えば、みなさんの腕時計が10分遅れている場合には、本当は朝の6時なのに、時計は5時50分になっていますよね?同じように、もし脳の中の時計が「6時間遅れている」場合には、朝6時なのに、脳の時計は、まだなんと!夜中12時にしかなっていません。そして、もし夜中12時に強い光に当たると、体内時計は「遅れてしまう」のです。ですから、例えば、いつも6時に起床する人が、夏休みに夜型の生活をして、毎日お昼過ぎにしか起きない生活に慣れてしまうとします。この場合、昼の12時の時に、脳の時計がまだ朝の6時になっているということですから、時計が6時間近く遅れてしまう危険性もあるわけです。ただし、通常は寝ていても部屋が明るくなりますし、短期間では、そこまでずれることはありません。

(2)リズムが遅れた場合、逆に夜の光は、正常とは反対にリズムを早める作用があるのでしょうか?(たとえば、19時くらいの比較的早い時間の夜の光は、眠気を増す?のに有効なのかなど・・・)
→残念ながら、それはありません。上の説明にあるように、6時間遅れた場合でも、朝に当たるのはお昼の12時です。12時間遅れるような場合には理論的にはありえますが、現実には時差ぼけ(アメリカ東海岸が日本のだいたい反対側なので)の時など以外には、ほとんどありえません。

(3)上の質問と被りますが夜の光は、よくない印象ばかりなのですが、体内時計のリズムに対して、何か 有効なこと、よいことはあるのでしょうか?(リズムが遅れている学生に対し、朝の光がよくないこともあるとのことでしたので、逆に夜の光が有効なこともあるのか・・・と疑問に思いましたので。)
→残念ながら、学生さんに対して良い場合は、全くありません。ただし、高齢の方でリズムが早くなりすぎている場合には、リズムを遅らせることが「良いこと」もあります。




:追加の質問も気楽にどうぞ。=> こちらから


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2011年3月16日 記載